東京 屋台ブラボー★ 連載第9回
東京 屋台ブラボー★ 連載第9回


黒光りする長靴を履いた男たちにホレボレ

春です。桜は舞い散り、やわらかく光る若芽がまぶしい季節となり
ました。みなさんは「春」を何で感じますか?
伊豆下田の(密)漁師の娘として育ち、小学校の放課後は釣りが遊
びの中心だったわたしにとって、春といえば魚。
アジ、カツオ(初ガツオのほうが好きでやんす)、スルメイカ(下
港で水揚げされたばかりのまだ透き通ったイカの美味しいことと
ったら!)、トビウオ(伊豆っ子は刺身でよく食べます)、メバ
ル、
サヨリ……。春から夏にかけての魚は、脂よりも淡泊な白身の
上品
な味わいが楽しみ。地元スーパーにバラエティ豊かな魚たちが
並ぶ
ようになると、「ああ春だな」としみじみ思うのです。

毎年、桜がふくらみはじめる頃になると、わたしの頭の中では、て
らてらに輝くアジやイカたちが悠々と泳ぎはじめる。
で、思う。
「ああ、春だ。魚が食べたい」
東京で魚といえば、築地。そうだ、築地へ行こう。

それで、あるお方に一本のメールを送りました。

 築地王さま築地王さま。
 わたしを築地へ連れて行ってください。
 そして、おいしい春の魚を食べさせるお店を
 紹介してください。

築地王、はてな? と思った方にインフォメーション。
築地王こと、小関敦之さんは、テレビ東京の人気番組TVチャンピ
オン「築地王選手権」で、並み居る強豪をぶっちぎって優勝した、
輝かしい経歴の持ち主。会社がご近所にあるため、足げく築地に通
い、市場周辺エリアを熟知しているその情報量を活かし、築地に関
する本まで出版しちゃう(『築地で食べる』光文社新書)ほどの筋
入りなのです。
今回は、そんな強力ブレーンを得て、築地市場潜入ツアーと相成り
ました。
「築地王のHP」http://www.worldramen.net/Tsukiji/Top.html

朝8時前。春霞のかかる築地の街は、ランドセルを背負って元気い
っぱいに走る地元の小学生と、出勤を急ぐサラリーマン、そして仲
卸の仕事がひと段落したらしい長靴姿の男たちが行き交うにぎやか
さ。車の通りも激しく、かなりせわしない街という印象を受けます。
彼らはみな、学校だったり仕事だったりが目的だけど、わたしたち
ブラボー★隊の目的は、ただひとつ。
「築地でうまいもんを喰らう」
という道楽。申し訳なさ半分、優越感半分ってところですね。


ピーク時間は過ぎたといえ、まだまだ忙しそうな場内市場
さて、「市場の活気を感じながら、ごはんが食べたい」とのリクエ
トに築地王が選んでくれたのは、場外市場の新大橋通り沿いの煮
み屋さん『きつねや』。
え、煮込み?春の魚はどこに?
「場内のほうが市場の雰囲気が味わえるし、魚もあるんだけど、屋
台とか立ち飲みは残念ながらないんですよね。その点、場外市場の
新大橋通り沿いは全部該当しますよ。魚は夜のお楽しみってことで
どうですか?」
そっか、場内はふつうのイートインしかないのね。魚ちゃんは夜ま
でお預けかぁ。残念だけど、そのぶん今晩が楽しみだわ。

気を取り直して、せっかく築地に来たのだからと、朝ごはんを食べ
る前に、築地王が場内場外をひととおり案内してくれました。

東京の台所、築地市場こと東京都中央卸市場。午前4時から働き出
す男ばかりの世界。魚のセリが行われる時間ともなれば、あちこち
で大声が飛び交い活気も沸点に達するのですが、わたしたちが訪れ
た8時過ぎには、セリはもうほぼ終了状態。それでも、“ターレッ
ト”
(通称ターレと呼ぶらしい)という、360度回転自由の荷物
運搬車
が、ところ狭しと走り回っていて、まわりの様子に気を取ら
れてい
るとビーッとクラクションを鳴らされてしまうので要注意ね。

わたしがこの場内市場で目が釘づけになってしまったもの。それは、
黒光りする長靴を履いた男たちの立ち働く姿でした。
か、かっこいい。それは、世の女子たちの間で流行っているブーツ
なんかよりもよっぽど、なんというか美しくさえ見えた。仕事道具
のひとつだからでしょうか。憧れを喚起させるあの黒い長靴、わた
しもそっと足を入れて築地の男たちの仲間になりたい〜っ。
そんなアホな妄想をよそに、築地王は場内のおすすめ店を次々教え
てくれました。いくつか王のコメント付きで紹介するので、築地ツ
アーの際は参考にどうぞ。


場内市場の入口で発見した「収得物掲示板」。マグロホホ肉って!




ひゃー、うまそうな本マグロ
(場内市場にて)




築地仕事人御用達の長靴たち。
ホレボレちゃちゃうわ
★「高はし」(魚料理)
「築地というと、生の魚を使った料理がウマイと思われがちですが、
焼いたり煮たり手間を加えた料理にこそ、プロの仕事が発揮されま
す。この店の看板料理“あんこう煮”(9月〜5月初旬まで)のス
プは驚くほど濃厚でコクがある。オフシーズンでも旬の魚がどれ
うなる味なんですよ。ボクのおすすめはあなご丼と小あまだいの
夜干し」

★「江戸川」(食堂)
「ここは築地で働く人たちが通う憩いの場。ボクがここに来たら必
ず頼むのは“マグロのぶつ”。ぶつといっても、中落ちにトロだよ。
たまに大トロじゃんこれ!っていう一片が混ざっていることもある
ふるまいっぷり。あと、イカ料理もおすすめですね。季節だったら、
子持ちヤリイカをぜひに」

★「かとう」(魚料理)
「西京焼と煮魚を食べたいときは、かとうへ! 味噌が強すぎず素
材の旨味をきちんと引き出している感じが好感もてます。煮魚は注
文を受けてから調理し始めるから、いつでも身がふっくら。煮汁が
煮詰まることもなく、ベストな状態でいただけるのがいい」

★「ぶちの」(ラーメン)
「築地エリアにはラーメン屋がたくさんありますが、ボク個人とし
てはこの店がいちばん好み。中太縮れの卵麺でコシが強く、濃い口
醤油が効いたスープによく合う。イチオシはチャーシューメン」

めくるめく築地案内に「へー」「ほー」「ひゃー」「うまそー!!」
の連
発。しっかし、「築地王」の冠どおり、彼の舌に裏打ちされた
情報量
の豊富さ、食のみならず築地の今昔、システムについても精
通して
いて、何を質問してもすらすらと答えてくれる。築地王であ
り築地
博士なのね。心底感心してしまいました。


場内にあるあんこう煮の名店
「高はし」
年季の入ったくたくた肉豆腐と
 ホルモン煮の深い味わいに朝からノックアウト


さてさて、ひととおり案内していただいたところで、本日のメイン
イベント。朝から築地でうまいもんを食べながらちょいと飲む。そ
の舞台となったのが煮込みで有名な『きつねや』さんです。
座席はわずか4つ。あとはテーブルが2つあるので、立ち食いが可
能。王曰く「この店は場外でも1、2を争う人気店で、行列ができ
ていて食べられないこともあるんですよ」ということでしたが、幸
い訪れたのが平日の9時前だったため、なんとか立ち食いスペース
を確保。ひとまず安心ね。

狭い間口のお店の中央には大鍋があり、グツグツと煮立ち、絶え間
なく湯気が湧き上がっています。湯気の向こうには、忙しそうに働
くおかみさんが見える。メニューを見ると、ホルモン丼、牛丼、肉
豆腐、ホルモン煮、ごはん、生玉子、お酒、瓶ビール。ホルモン、
肉豆腐だけを注文してはいけないらしく、ごはん+ホルモン煮(肉
豆腐)、あるいは酒+ホルモン(肉豆腐)のいずれかを選ぶシステ
になっている。
そこで、わたしたちブラボー★隊のふたりは、肉豆腐とホルモン煮
にビールの小瓶を一本ずつ。王は牛丼をそれぞれ注文。

さすが人気店。客さばきは手早く、注文したものはものの1分で出
てきた。アルミのトレーに乗っかってくるのが、またレトロでいい
じゃない。
ひっきりなしに、人々が行き交うなかでビールを注ぎ合い
「かんぱい」。朝っぱらからおなごがビールかよ、っていう視線が
クチクしたけど、それがまた気持ちいい。


場外市場へようこそ!











手前が肉豆腐、奥がホルモン煮
(いずれも550円)。
ビールは420円(小瓶)。
次回はどんぶり飯でいっちょう!
肉豆腐は、どれくらい煮込んだらこないな風貌になるの?というく
らい、肉とタマネギ、焼き豆腐があいまみれて渾然一体となってい
る。見た目の色からは、けっこう濃い味を想像していたけれど、口
に入れてみるとわりと薄味。だけど、あの大鍋でじっくり煮込まれ
ているためか、味に深みがある。甘みが少なく、酒のアテにはぴっ
たりだな、こりゃ。と嬉しくなってしまいました。
肉の部位は特定できませんが、きちんと下処理が施されているのか、
筋もいやな脂身もなくてするりと食べられます。ビールとの相性も
いいけれど、こいつをごはんにかけてわしわしとかきこんだら最高
だろうな。石ちゃん(石塚英彦)ばりに「まいう〜」とか言っちゃ
いそう。

もうひとつのホルモン煮。こっちのほうが圧倒的人気で店の看板メ
ニュー(っていってもメニュー数少ないけどね)だそうだ。これま
た、モツが濃厚な味わい(濃いのではない)で、レベル高し。シャ
ッキリ青ネギといっしょにいただくと、複雑な風味のモツとネギの
爽やかな味が口の中で絡み合って、たまらん。酒、もう一本もって
こーい、なんて言いかねない美味しさです。
ただ、値段が決して安くはないのがちょいと残念。ビール小瓶とつ
まみで一人970円だもんな。

最初、王から「朝はモツ煮込み丼」と言われたとき、「朝から、が
つり煮込み〜?」と弱気だったのですが、食べてみれば脂っぽく
いし、甘みも塩味も控えめなので、無理なく、というかおいしく
ただきました。

しかも「魚の聖地、築地に来たのだから魚を食べなくちゃ!」と意
気込んで乗り込んできたのですが、王から「築地は牛丼激戦区でも
ある」とか「だんご三兄弟のモチーフになったのは、場内の『茂助
だんご』」とか洋食やカレー屋さんの名店を次々に教えてもらって
ると、「築地だから魚」という単純な図式を描いていた自分が浅
はか
であったことに気づく。

奥が深いぞ、築地うまいもんワールド、と認識を新たにしたブラボ
ー★隊でありました。

(次回は夜の築地へご案内します)

築地王のチョイスは、牛丼(530円)



味     ★★★★
      あの年季の入った煮込みに完敗っす
お酒    ★★
      ビールと日本酒だからね。でもあるだけエライ
ひとり飲み ★★★ 
      さらっと30分
雰囲気   ★★★
      築地の男たちと肩を寄せ合ってどんぶり飯を
      かっこみたい
女子的気軽 ★
      ひとりで行けたら人生、何かが変わるかも




「きつねや」
本願寺と築地市場の交差点から1分、
場外市場内。
住所/東京都中央区築地4-9-12
電話/03-3545-3902
営業/7:00〜13:30
休み/日曜・祝日・市場の休日





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